CAREER PICTURE BOOK

薬剤師キャリア図鑑

荒さやかさん

荒さやかさん

病院薬剤師

  • 病院薬剤師
  • 個人病院

今回は個人病院で働いている荒様にお話をお伺いしました。総合病院と調剤薬局という2つのルーツを持つ荒さんに、薬剤師としてのキャリアや病院薬剤師のやりがいや大変なこと、薬剤師のコミュニケーションスキルの必要性など、様々な質問にお答えいただきました。


【1:病院薬剤師からスタートし、結婚を機に調剤薬局へ】

-荒さんが薬剤師になろうと思ったきっかけと、薬剤師としてのキャリアを教えてください。

 薬剤師を志すにあたって大きな理由があったわけではありませんでした。ですが、高校時代は有機化学、生物、化学の授業はおもしろくて好きでした。親族にも薬剤師として働いている人がいたので、仕事に関する話も何となくは聞いていました。

その流れで興味が出てきて、薬学部へ進学しました。卒業後は、大学の先生に紹介していただいた国立で薬剤師として働き始めました。病院病床数の多い総合病院で、勤めて1年しないうちに別の総合病院に異動になり、そこでもまた少し働きました。その後に結婚を機に病院を退職して、調剤薬局へ転職しました。

-そして現在は、また病院薬剤師として働いていらっしゃるのですか?

 はい。今は個人病院で正職員より少しだけ勤務時間の短い「時短職員」として働いています。

-そうなのですね。しかし新卒から勤務されていた国立病院と、現在お勤めの個人病院では働き方もかなり違うのではないですか?

 そうです。それまで勤務していた国立病院はかなり大きな総合病院でしたので、他部署で働いている人はほとんど知りませんでした。一方、今勤めている個人病院は本当に小さなところなので、各科、病棟、分け隔てなく密に連絡を取っています。

【2:個人病院で働くメリットとは】

-個人病院で働くメリットは、何だと思いますか?

 人と人の距離が近いことがメリットです。ベテランの看護師さんやソーシャルワーカーさんともお話しができて、とても勉強になると思っています。小さい病院なりの人と人の繋がりの濃さを非常に感じます。

-診療科目は何を担当されているのですか?また、病床数はどれ位ですか?

 診療科目は、外来だけでいえば色々ありますが、基本的に輪番や当番で回ってくるときのメインは、内科・外科・消化器です。病床数は72床です。

-ということは、薬剤師の方は1人か2人くらいですか?

 短時間正規で働いている私の他に、フルタイムで常勤の方が2人いらっしゃいます。さらに短い時間で働いている方が他に2人ほどいらっしゃいます。そのため所属人数は全体で言うと5人なのですが、実際フルで動いているのは私を含めて3人になります。

-となると、病院の配置基準からすれば薬剤師の人数は結構いる方ですかね?

 そうですね。ですが、パートさんたちも時間が限られているので、5人全員がフルで働けるわけではないのです。そのため頭数の割には大変で、人数が足りているとは言いにくいです。 以前勤務していた大きな病院よりも、今は業務範囲が多岐に渡ります。もちろん主業務以外の面で関与させてもらえるのは勉強になるのでありがたいのですが、その部分の業務負担が結構大きいので大変です。

-なるほど、本当に人手が足りてないのですね。小さい病院ならではの苦労はありますか?

 苦労はそれなりにあります。例えば、大きな病院ほど部署の縦割りが行われていない点などです。いわゆる大病院では、ここからここまでは薬剤師の仕事でここから先は看護師の仕事というように、業務範囲が明確に決められていました。そのため今の職場では「この業務はそっちでやってくれれば良いのに」と思うこともあります。また、小さな病院ゆえにスタッフ同士の距離も近くて、はっきり指摘して波風を立ててしまうことに気が引けて、少し言いづらいということもあります。

ですがもちろん、今勤めている個人病院にも良い点はあります。大病院のように縦割りを徹底した上で、定期的に上層部の人間が集まって話し合う機会も多くないので、トップダウンで具体的な指令が下る堅苦しさが無い点などです。ですが、その反面「今回はこんな風になりました」という不明瞭な内容で終わることもあります。そのため正直、曖昧になっている部分はあるのかなということは感じます。

【3:多職種との関わりがモチベーションにつながる】

-仕事に対するモチベーションはどうですか?お話を伺っていると、とても高そうだなと思うのですが。

 そうですね。初めて勤務した病院を退職してからは調剤薬局勤務が長かったので、病院薬剤師として再び働き始めてからは、他職種の方とお話しする機会も増えました。それがモチベーションにつながっている気もします。

-他職種の方との何気ない会話も、仕事のモチベーションにつながるわけですね。

 私は多分、恵まれていると思います。今までの調剤薬局も全部含めて「入らなければよかったな」と思ったことは一度もありません。ジャンルなどもバラバラな割に、毎回何かしら学ばせてもらいました。人間関係も含めて困った経験はあまりないです。

もし人間関係で何か引っかかったりするとモチベーションも上がらないし、体調も崩してしまうこともあると思います。そういったことで私はラッキーですね。

-仕事上で失敗したことは何かありますか?

 特にはないですね。高い薬を壊したということなどは確かにありますが、責任問題になるほどのものは壊していませんので。

-なるほど。ちなみに、高い薬を壊した時には薬局長から何か言われましたか?

 いえ、そもそも薬局長から言われる前に「すみません、割ってしまいました」と自分から言いました。「ああっ…」とは言われましたが、割ってしまったものは仕方がないですから、「しょうがないですね」でその話は終わりました。

-そうなのですね。それでは、仕事をしていて嫌だったことは何かありますか?

 そうですね。たとえば、病院や薬局の業績をアップさせなければいけないのはよくわかるのですが、「業績のプラスになることをメインにして働いてください」と言われるのは少し嫌かもしれません。「点数をたくさん取るためにどんどん服薬指導に行ってください」といったことです。

それがもちろん大事なのは分かっていますが、病院や薬局の業績にとってプラスになることだけをするのは、あまり好きではないというか、少し趣旨が違うのではないかと思ってしまいます。もちろん、患者様のプラスになることであればいいのですが。

-つまり、大手の調剤薬局でよく言われるように「もっと点数を取る」や「OTCの売り上げは店舗でこの位取ってください」というようなことは、苦手ですか?

 そうですね。「今月はこのサプリメントを売りたいからグイグイ勧めなさい」ということなど、そういうことにどうしても抵抗を感じてしまいます。あくまで患者様、利用者様たちにとってメリットになるような付加価値を提供したいとは思っています。そのため、ただやみくもに売ったり、勧めたりするのはあまり得意ではないですね。

【4:医師や患者様から言われてうれしい言葉】

-荒さんが医師から言われて嬉しかったことは何かありますか?

 やはり「ありがとう」と言われるのは、医師からでも看護師からでも、純粋に嬉しいなとは思います。特に今の病院では接点も多いですからね。

時には忙しくてピリピリしていることもありますが、怖くて話しづらいということも特になく、普通に「これお願いします」と依頼できます。「薬を処方することをお忘れですよ」と言えば、「忘れてた!ありがとう!」と瞬時に対応してくれるので助かります。

他にも、昔病院にいた時は「患者様、ここはちょっと困ってそうだな」と思って電子カルテに書いておくと、後で先生が「すみません、書いてくれてたこの患者様なんですけど…」と私に声をかけてくれることもありました。しっかり読んで参考にしてくれているのだなと思って、嬉しかったです。書いておいてよかったなと思いました。

-では患者様に言われて嬉しかったことは何かありますか?

 あまりお話しをされない患者様が話しかけてくださると、純粋に嬉しかったです。薬局の時に薬のこと云々だけではなく、いろいろなお話しをしてもらえるとやはり嬉しいです。世間話だけされに来る患者様もいらっしゃいましたが、私宛ではなくとも、ここの薬局だから毎月しっかりと来てくださっているというのはありがたかったです。

現在はご高齢の方が多い地域なので、リハビリなどで来られた時に「どうも」などと声を掛けていただけると、「ああ、覚えてくれていたんだな」と嬉しくなりますね。

-荒さんが新卒に戻れるなら、今の職場に勤めたいと思いますか?

 今働いている規模の小さい病院は、新卒であれば、申し訳ないですが勤めないと思います。私が最初に入局した時代は薬剤師の新人教育があまり確立されていませんでした。実際新人研修をするには人的なリソースが充分でないとカバーするのは難しく、今の職場の人数だと新卒の子に薬剤師としての基礎を教え込むには少し不安が残るなとは思います。

ただ、総合病院の場合であれば、多くの科があり、様々な薬に触れられます。薬剤にも色々な部署があり、薬剤師である叔母が「最初に大きな総合病院で働いたほうがいいよ」と言っていたのはそういうことなのかなと感じています。総合病院で勤務した後に小規模の調剤薬局で働くと、見えてくるものが多いのではないかと思います。そのため、現在いるような規模の小さな病院は、若いうちに多くの経験をされてから入ったほうがよいと思います。

-なるほど。では、生まれ変わっても薬剤師として働きたいですか?

 ならないかもしれません。大学も理系に行っていないかもしれないですね。薬剤師ではない友人もいて、自分が文系の大学に行くかもしれないと考えると、薬剤師ではない人生もありかなと思います。そういうことも少し体験してみたかったりします。

-インタビューでいつもこの質問をするのですが、半分位の方はまた薬剤師になってもいいと言われますが、全然違うことをしたいと言う方もいらっしゃいます。

 そうなのですね。少し安心します。

-ありがとうございます。では、新卒で就職したときの自分に何か1つだけ伝えられるとしたら、何と言ってあげたいですか?

 もっと色々なことにアンテナを張り、意識して色々なものを見ておいた方がいいと言いたいですね。多くに触れられる部署、職場に入ったのだから、全部見ておけということですね。今考えると、それが足りなかったなと思います。

【5:相手のことを理解して話せるスキルを】

-これから薬剤師として活躍するために必要なスキルは何だと思いますか?

 とても基本的なことを言えば、あまり高くない私が言うのも変ですが、コミュニケーション能力は絶対的に必要です。患者様や、在宅であればご家族の方や地域のケアマネさんも含めて、いろんな方と話をするときに、きちんと相手のことを理解してお話ができるかどうかが大切だと思います。

薬の説明や自分の話だけするのではなく、相手の言っていることを分かった上で話がきちんとできるコミュニケーション能力が、本当に必要だと思います。どんなに知識があってもそれを伝える能力がなければ、「色々なことをただ言っているだけの人」になってしまいます。

また、患者様、ご家族の方、ケアマネさんから疾患や病態などの話をされた時、自分が分からないことがあれば「それはどういうことですか?」と聞けるだけの関係性を築くためのコミュニケーション能力も必要だと思います。 一般的にも、ディスカッションをしたりすることがどうしても苦手という人も多い中で、特に私も含めて薬剤師は何か意見を求められると黙ってしまうことも多いです。そういうときにきちんと話ができるなど、意見が言えて、分かりやすく簡潔に話ができるスキルはどんどん必要になってくると思います。

臨床に関係なく、メーカーさんであれば薬の説明をしに来るわけなので、そういうときにももちろん必要なスキルだとは思います。例え研究職であっても、自分が研究したものを人に伝える時にもコミュニケーションスキルは求められますし、その内容は学術の人だけが分かっているだけでは意味がありません。その知識を使う現場に伝わらなければ意味のない情報だったりするので、そういうことをきちんと伝えられるスキルは大事なのかなと思います。

-コミュニケーション能力が大事とは言うものの、ではどうすれば身につくでしょうか?

 コミュニケーション能力を身に着けるのは、決して簡単ではないですよね。私もコミュニケーション能力を上げていかないといけませんし、まだまだ不足しています。どうしたらコミュニケーション能力が磨かれるのか私も正確には分からないので、いい意見があったらむしろ教えていただきたいです。 ですが、コミュニケーション能力がないと、例えば調剤の投薬をするときに一方的に話して、話した気になってしまう人もいます。ですが、それでは患者様に全く伝わっていないこともあるので、どんなにお薬をきちんと処方しても整理がつかなくなってしまうということもあります。

今の職場はいろんな職種の人たちがいるので、話が上手な方もいれば、少し引っ込んでお話しされる方もいます。そういうときに話が上手な方を見て、よいところを真似してみようとは思います。例えば、自然にコメントが言えるタイミングが上手だったりするところですね。

【6:薬剤師同士で連携して、業界全体をよい方向に】

-それでは最後に、同じ薬剤師の方に何か伝えたいことありますか?

 そうですね。同じ職種の人たちには、お互い病院、薬局、企業もろもろで連携して、業界全体でよい方向に進みましょうと言いたいです。実際、病院薬剤師と薬局薬剤師の間に勢力図のようなものはあるかもしれませんが、同じ職種なのだからお互いに仲良くやりましょうよと思ったりしますね。 今後薬剤師はどうなっていき、どうしたいのかを考えて、互いに向き合っていかなくてはいけません。それぞれの立場や、そこにいないと分からないことは多いと思います。そういう相手の立場も考えた上で、互いに手を取り合って、同じ方向を向いて患者様のことや、未来の医療のことを考えていけるようにしたいですね。

できることなら、交換留学のようなことはしたいですね。製薬会社の人に1度現場に出てもらって患者様の声を聞いてみるとか、反対に現場の人が製薬会社に出向するとか、あとは病院と薬局でチェンジしてみるとかですね。地域連携が重要視されているので、交換留学のようなことはするべきだと思います。皆さんでしっかりと連携して、業界全体でよい方向に進んでいけたらいいですね。

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